今日の社会において、レーザー技術は多岐にわたる分野で重要な役割を果たしています。

例えば、通信、医療、製造業、科学研究など、多様な応用分野でレーザーが利用されています。しかし、これらへの適応においてレーザーの性能を最大限に引き出すためには、その特性を正確に理解し、評価することが求められます。その中でも通信の分野では「線幅」は特に重要な要素の一つです。線幅とは、レーザーの光の周波数スペクトルが持つ幅を指し、これによりレーザーの純度や安定性が評価されます。

本記事では、レーザー線幅について詳しく解説します。線幅の基本的な定義や種類、さらに、レーザー線幅を測定する方式として、遅延干渉計、デジタルコヒーレント受信機、光FM-電気FM変換などを紹介します。

本記事を通じて線幅についての理解を深めていただき、レーザー測定器のより効果的な利用が可能となることを目指しています。

目次

レーザー線幅とは?

レーザーの光周波数の変動に起因

レーザー線幅とは、レーザー光の周波数の広がりを示す重要な特性の一つです。理想的なレーザーは単一の波長(または周波数)で発振するべきですが、実際のレーザーは様々な要因により光の周波数が時間と共に変動し、ある範囲に広がります。この広がりの幅を「線幅」と呼びます。

線幅はレーザーの純度や安定性を評価するための重要な指標であり、通信や計測など多岐にわたる応用分野において、その性能に直接影響を与えます。

レーザーの光周波数の変動は、レーザーの出力特性や環境条件にも依存します。これを最小限に抑えるためには、レーザーの設計や使用環境の最適化が必要です。例えば、温度制御や振動対策、電源の安定化などが効果的な手段として知られています。さらに、レーザー発振器自体の最適化設計技術も、レーザー線幅の縮小に貢献します。

レーザーのスペクトラム純度を評価する単位は「Hz」

レーザー線幅は「Hz」(ヘルツ)という単位で表されます。この単位は、レーザー光の周波数の変動範囲を示すものであり、その純度を評価するための重要な指標です。一般的に、レーザーの電界のスペクトラムの半値全幅(FWHM: Full Width at Half Maximum*)を指し、これは、スペクトル線の最大強度の半分の強度を持つ両端の周波数間の差を指します。線幅が広いほど、スペクトルが広がっている(レーザー光の周波数が大きく変動している)ことを意味し、逆にこの値が狭いほどスペクトルが集中し、スペクトラムの純度が高い(レーザー光の周波数が安定している)ことを意味します。

*FWHMはレーザーの設計や製造プロセスにおいても重要なパラメータです。例えば、レーザーの共振器設計や温度制御、駆動電流の調整などによって、線幅を最適化することが求められます。

レーザー線幅の評価はなぜ必要か

レーザー線幅の評価と管理は、レーザー技術の発展と応用において欠かせない要素となっています。特に、通信分野や精密計測、医療機器などの性能を調べる上で重要です。

例えば、光ファイバー通信では、特にデジタルコヒーレント通信方式において、レーザーの線幅が狭いほど信号の品質が向上し、高速かつ高品質なデータ伝送が可能になります。また、精密計測では、線幅の狭いレーザーを使用することで、より高精度な測定が可能となります。これは、位相雑音の少なさや高い周波数安定性が要求されるためです。

一方、医療や材料加工などの分野では、広い線幅が求められることがあり、これは広範囲な波長域でのエネルギー供給が必要とされるためです。

レーザー線幅の一般的な測定・評価方法としては、光スペクトラムアナライザーを使用して、レーザーの出力光のスペクトルを直接観測し、そのスペクトルのピーク強度の半分の位置での周波数差を計測します。この測定により、レーザーの特性や用途に応じた適切な評価が可能となります。

しかしながら、多くの光スペクトラムアナライザーの周波数分解能は、600 MHz以上であり、これより狭い線幅は測定できません。近年では光ファイバー通信や精密計測の分野では、10 kHz以下の線幅の評価が必要とされています。

レーザー線幅の測定方法:4種類をご紹介

レーザー線幅を正確に測定するためには、適切な機器と手法を用いることが不可欠です。代表的な計測機器とその特徴について見ていきましょう。

1. 遅延干渉計

遅延干渉計方式は、過去には一般的に用いられていた線幅測定方法です。この方法では、レーザー光を二つに分け、一方を遅延させた後に再度干渉させることで、干渉によるビート信号を電気スペクトラムアナライザーで観察し、スペクトラムの広がり具合からレーザーの線幅を求めることができます。この方式のメリットとしては、構成が簡単で事前調整が不要であることが挙げられます。この方式は、光スペクトラムアナライザーよりは高い分解能が得られます。

メリット

  • 構成が比較的簡単
  • 事前調整が不要

デメリット

  • 測定結果が遅延時間に依存する
  • 線幅の詳細情報が得られない
    • 低い帯域の光周波数変動が支配的になってしまう
    • デジタルコヒーレント通信、FMCW LiDARなど、特定の光周波数変動帯域の線幅評価が必要なアプリケーションには不向き

2. 光FM-光AM変換方式

光FM-光AM変換方式では、光フィルタなどの透過率が光波長(光周波数)に依存する素子を用いてレーザー光の周波数変動(FM)を強度変動(AM)に変換します。変換された光信号の強度を光ディテクタと電気スペクトラムアナライザーを用いて測定することで、線幅を評価します。この方法は、広い光周波数変動帯域に対応可能です。

メリット

  • 直感的に理解しやすい

デメリット

  • 光フィルタの動作点の事前調整が必要
  • 再現性が低い
    • 光フィルタの透過率の波長依存性の正確な校正が困難
    • 光フィルタの透過率の波長直線性を広い範囲で確保できないためダイナミックレンジが不足する
    • 光FM-光AM変換効率が光強度に依存するため、光強度が変動すると正しく測定できない
    • 光強度雑音が測定結果に重畳される

3. デジタルコヒーレントレシーバ方式

デジタルコヒーレントレシーバ方式は、デジタルコヒーレント通信機器を応用する方式です。この方式では、デジタルコヒーレント受信器を用いてレーザー光の強度と位相をサンプリングし、そのデータから光周波数変動のスペクトルを抽出することで線幅を求めます。デジタルコヒーレントレシーバ方式のメリットは、リアルタイムでサンプリングを行うため効率的な測定が可能な点です。また、広い光周波数変動帯域に対応可能です。

メリット

  • 効率的な測定が可能
  • 測定帯域が広い
  • 光電力の変動の影響を受けにくい

デメリット

  • ローカル光源の線幅が結果に重畳される
  • 量子化雑音の影響が大きい
  • 光波長チャネルの事前設定が必要

4. 光FM-電気FM変換方式

光FM-電気FM変換方式は、特殊な遅延干渉計により、光の周波数変動(FM)を電気の周波数変動に変換して測定する方法です。電気周波数の変動を電気スペクトラムアナライザーを用いて解析し、線幅を計算します。この方式の利点は、広いダイナミックレンジと高い測定精度を持つことです。動作点や光波長の事前調整が不要であるため、効率的に測定が可能です。

メリット

  • 事前調整が不要
  • ダイナミックレンジが広い
  • ノイズフロアが低い
  • 測定確度を決定するパラメータが干渉計の遅延時間のみであるため、再現性が高い
  • 光電力の変動の影響を受けない

デメリット

  • 測定帯域が限定的

SYCATUSの光雑音アナライザー「A0040A」

SYCATUSの光雑音アナライザーA0040Aは、光FM-電気FM変換方式を採用し、レーザー線幅を光周波数ノイズのパワースペクトル密度として評価する業界初のソリューションです。

ダイナミックレンジが広いため、ITLAに光周波数ディザを用いている場合でも、正しく測定が可能です。デジタルコヒーレント伝送システムに必要とされるレーザーの1/fノイズ、ホワイトノイズ、ローレンツ線幅を解析します。事前調整が不要のため、測定のスループットを高めることができます。課題とされている測定帯域も、255 MHzまで拡張しています。基準レーザー光源が不要なため、基準レーザー光源の線幅の影響をうけることもありません。

SYCATUSのレーザー線幅測定システム「A0020A」

SYCATUSが提供するレーザー線幅測定システム 「A0020A」は従来の遅延干渉計方式を採用したレーザーの線幅評価のための計測システムです。

レーザーの線幅評価は、光通信用レーザーの開発、製造、品質管理に不可欠です。

高感度・低ノイズの光テストセットと、Keysight Technologies(キーサイト・テクノロジー)社のシグナル・アナライザーを組み合わせることで簡単に線幅を測定できます。

よくある質問1~3

1. 光測定を正確に行うためのポイントについて簡潔に教えてください。

正確な測定を行うためには、まずは測定対象の特性に応じた最適な測定機器の選定、測定手段を選ぶことが必要です。

また、測定環境の安定性を確保するために温度や湿度の変化が少ない環境で測定を行うこともポイントです。このことで、外部要因による誤差を最小限に抑えることができます。

さらに、測定機器自体のキャリブレーションも定期的に行うことが推奨されます。正確なキャリブレーションを実施することで、測定結果の信頼性が向上します。

2. 線幅と解像度の関係を教えてください。

線幅はスペクトラムによる評価になりますが、スペクトラムの評価では、解像度、すなわち分解能帯域幅(RBW: Resolution Band Width)が重要な要素となります。分解能帯域幅は、スペクトラムのサンプリングの方式により決定されます。線幅測定においては、分解能帯域幅が線幅に比べ十分に小さいことが求められます。一般的には、分解能帯域幅は測定する線幅の1/10以下であることが必要です。

3. SYCATUSの線幅測定器「A0040A」と従来の製品の違いは?

SYCATUSの線幅測定器「A0040A」は、従来の製品と比較して以下の点で優れています。

まず、光FM-電気FM変換方式という高度な技術を採用することで、微小な線幅の測定が可能となり、より正確なデータを取得することができます。

また、操作性も向上しており、ユーザーフレンドリーなインターフェースが搭載されています。これにより、専門知識がなくても簡単に操作できることが大きな利点です。

さらに、測定速度も向上しています。従来の製品に比べて、測定時間は高速測定モードで1秒未満となり、効率的な計測作業が可能となります。そのため、特に大量のデータを扱う場合や、リアルタイムでの測定が求められる状況において、その性能が大いに発揮されます。

まとめ:光測定における基礎知識:「レーザー線幅」とは何か?

本稿では、レーザー線幅の基本、重要性、測定方法、最新の測定システムについて解説しました。レーザの線幅は光の品質の重量な指標であり、特にデジタルコヒーレント通信やコヒーレントセンシングの分野では正確な線幅評価が求められます。

また、レーザー線幅の測定にはいくつかの方法があり、それぞれに特有の利点があります。適切な測定方法を選択することで、より正確なデータを得ることができ、研究や製品開発の成功に貢献します。

SYCATUSの光雑音アナライザー「A0040A」やレーザー線幅測定システム「A0020A」は、精度と使いやすさ、そして最新の技術を兼ね備えたツールです。

レーザー線幅に対する理解を深め、新しい技術を積極的に開発や研究に取り入れることで、光測定の精度を向上させることができるでしょう。

お気軽にお問い合わせください。

SYCATUSは、光通信と光センシング分野における測定の先駆者として、20年以上にわたり、測定のためのハードウェアとソフトウェアの統合システムを提供してきました。

これからも、専門性、独自性、正確性を基軸として開発された革新的な光計測技術を、全世界に発信してまいります。

また弊社では、光測定に関する様々な疑問やシステム機器の導入に関するお悩みに対して、専門的なアドバイスを提供しています。

弊社の専門スタッフが、光測定に関するさまざまな問題の解決をお手伝いをさせていただきます。