レーザー光源は光通信システムにおいて重要な役割を果たしていますが、その運用には、品質に大きく影響する雑音特性が非常に重要視されています。
レーザーの雑音特性は通信のSNR(Signal to Noise Ratio、信号帯雑音比)を決定する要因であるため、国際的な規定・規格に基づいて製造・設計されています。
本コラムでは、光通信におけるレーザーの雑音の種類、またそれぞれの規格や評価方法について解説します。
目次
- 1. レーザーの雑音の種類(相対強度雑音・線幅)
- 2. 相対強度雑音の規格の種類
- 3. 相対強度雑音の評価方法
- 4. 線幅の規格の種類
- 5. 線幅の評価方法
- 6. 補足:レーザーの安全規定・安全対策・クラス分類
- 7. まとめ:光通信におけるレーザーの雑音に関する規格とは
- 8. SYCATUSの相対強度雑音測定システム「A0010A」
- 9. SYCATUSの光雑音アナライザ「A0040A」
1. レーザーの雑音の種類(相対強度雑音・線幅)
光通信システムで使用されるレーザーは、信号源としての特性の揺らぎ(雑音)を伴います。これにより、通信品質、さらには通信容量に影響が生じるため、その評価と規格が国際的に定められています。特に評価が重要視されるレーザーの雑音には、以下の2種類があります。
相対強度雑音(Relative Intensity Noise、RIN)
相対強度雑音(Relative Intensity Noise、RIN)は、レーザーの出力強度が変動する現象を指します。光の強度変動は通信のSNRに悪影響を与えます。通信品質の維持やエラーの抑制には、相対強度雑音の管理が欠かせません。特に、レーザー光の変調レートが高まり、変調方式が多値化し、さらに低消費電力化のためレーザーの電流の削減が求められる現在においては、SNRを確保するためにレーザー光の相対強度擦音の評価は必須となっています。
線幅(Linewidth)
線幅(Linewidth)は、レーザー光の周波数(波長)のゆらぎに起因するスペクトル幅を指し、特にデジタルコヒーレント通信方式で問題となる要素です。線幅が広すぎると、通信信号の正確な復調が難しくなり、誤り率が増加します。このため、レーザー出力の線幅も厳格に規格化されています。線幅が狭い方が高いSNRが得られ、特に変調方式の多値化と長距離通信においてそのメリットが顕著です。
参考までに・・・
光通信用のレーザーには相対強度雑音や線幅とは別に、レーザーの安全性に関する規格も定められており、主にレーザー機器の安全に関する国際規格(IEC 60825-1およびIEC 60825-2「Safety of Laser Products」)*により管理されています。各メーカーはこの規定に従ってレーザ製品を設計・製造することが求められます。
*IEC 60825-1およびIEC 60825-2におけるレーザーの安全規定とクラス分類については、後半の第6章で詳しく紹介しています。
2. 相対強度雑音の規格の種類
相対強度雑音の規格は、レーザー光の品質を保つため、各国際規格が基準を設けています。中でも、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers、米国電気電子技術者協会)の規格が多く参照されています。
IEEE規格
IEEE規格は、主に高速データ通信やイーサネット通信の分野で広く採用されており、さまざまな通信機器が共通の手順に従って相互に通信できるようにするための規定です。RINの基準値もこの中で定義されています。
IEEE 802.3規格は、最大800 Gbps(ギガビット毎秒)におよぶ高速通信方式におけるレーザーの相対強度雑音を規定しています。
IEE 802.3では、RIN×OMAという評価項目により、それぞれの通信方式に応じて、その許容される最大値を規定しています。
3. 相対強度雑音の評価方法
相対強度雑音の評価には、RIN測定システムなどの高精度測定器が使用され、RINのスペクトラムを測定し、RIN×OMAなどの数値を算出します。
ステップ1 測定環境の設定
無変調状態のレーザー出力光を光アッテネータなどを用いて、測定に適切な強度に調整します。光強度が高いほど、より低いレベルのRINの測定が可能ですが、測定システムの許容値を超えないようにする必要があります。レーザー単体のRINを測定する場合は、低雑音のレーザードライバを用いることが推奨されます。また、RINはレーザーへの戻り光に依存するため、RIN×OMAのように意図的に戻り光を設定する場合以外は、戻り光を極力抑える必要があります。
ステップ2 RINスペクトラムの取得
測定システムによりRINのスペクトラムを取得します。一般的に、スペクトラムの帯域幅はレーザー光の変調レートと等しいことが要求されます。測定対象が雑音スペクトラムであるため、数十回以上の平均をとることが求められます。
ステップ3 測定評価
得られたRINスペクトラムに対し、規格に応じて最大値を求めたり、スペクトラムに対するフィルタリングを施した後の平均値を取得します。
ステップ4 RIN×OMA評価
IEEE802.3のRIN×OMAを求めるためには、変調時の電力の測定も必要になります。レーザーに規定の変調を施した状態で、上記のステップ1~ステップ3を実行し、IEEE802.3に定義されている計算式に基づきRINxOMAの値を算出します。
4. 線幅の規格の種類
線幅に関する規格も光通信の信号安定性に大きな影響を与えるため、多くの国際規格で基準が定められています。特に前述のIEEE、OIF(Optical Internetworking Forum)やITU-T(International Telecommunication Union - Telecommunication Standardization Sector)などの規格が線幅の基準として広く採用されており、それぞれの規格が定める基準に従って、レーザー光源の線幅を評価します。
IEEE規格
IEEEでは、特にデジタルコヒーレント方式に用いられるレーザー線幅の基準が定められており、規定の値より低いことが求められます。802.3ct、802.3cwなどでは、白色雑音線幅が評価の指標とされています。線幅の定義については、ITU-T G.698.2を参照しています。白色雑音線幅を求めるためには、レーザーの光周波数雑音スペクトラムの測定が必須となります。従来の遅延干渉計による線幅測定では、白色雑音線幅を得ることは不可能です。
ITU-T規格
ITU-Tの規格G698.2の中で、デジタルコヒーレント方式用のレーザーの線幅が規定されています。ここでもIEEEと同様に白色雑音線幅の評価が要求されています。
OIF規格
OIF(Optical Internetworking Forum)は、光通信技術に関する標準を策定する非営利組織で、光通信における相互接続の標準化として、特にデータセンター間のデジタルコヒーレント通信に関連するレーザーの線幅規格を提供しています。線幅に対する要求は、光周波数雑音スペクトラムに対するマスクとして表されています。
OpenZR+規格
OpenZR+はデータセンター間通信に特化した規格で、100Gから400Gまでのデジタルコヒーレント光通信の技術に対応し、OIFと同様に周波数雑音スペクトラムに対するマスクとして、線幅特性を規定しています。
5. 線幅の評価方法
レーザーの線幅を測定するための適切な機器を選定します。通常の光スペクトラムアナライザーや遅延干渉計では、白色雑音線幅などの詳細な線幅測定は不可能です。光周波数雑音スペクトラムの評価が可能な光雑音アナライザーなどが用いられます。
ステップ1 測定環境の設定
レーザーを無変調状態に設定し、光アッテネータなどを用いて、測定に適切な強度に調整します。光強度が高いほど、より低いレベルの線幅の測定が可能ですが、測定システムの許容値を超えないようにする必要があります。レーザー単体の線幅を測定する場合は、低雑音のレーザードライバを用いることが推奨されます。また、線幅はレーザーへの戻り光に非常に敏感であるため、レーザー光を光ファイバーに結合させる際には光アイソレータを用いる必要があります。
ステップ2 光周波数雑音スペクトラムの取得
光雑音アナライザーなどを用いて、光周波数雑音のスペクトラムを取得します。測定対象が雑音スペクトラムであるため、数十回以上の平均をとることが求められます。
ステップ3 測定評価
OIFおよびOpenZR+の規格では、光周波数雑音のスペクトラムが、要求されるマスク以下であることを確認します。IEEEおよびITU-Tの規格では、光周波数雑音のスペクトラムが、横軸周波数が高い領域(一般的には100 kHz以上)において平坦になっているレベル(単位はHz2/Hz)にπを乗じることにより求められます。いずれの規格においても、光周波数雑音スペクトラムの測定が必須です。
6. 補足:レーザーの安全規定・安全対策・クラス分類
IEC 60825-1およびIEC 60825-2は、レーザー製品の安全性を規定したIEC規格です。
レーザーを安全に使用するためには、その出力レベルや使用条件に応じたクラス分類と安全規格に従うことが重要です。
光通信に使用されるレーザー光源には、一般的に以下の分類のうち、クラス1またはクラス1Mが適用されます。
クラス1 | 波長範囲: 全波長を対象。 強度: アクセス可能放射限界(AEL)以下で、どの条件でも安全。 安全性: 長時間の露光も含め完全に安全。レーザープリンタや密閉システムが該当。 |
クラス1M | 波長範囲: 主に赤外線や可視光。 強度: 肉眼での安全性は確保されているが、双眼鏡や望遠鏡などの光学器具での観察は危険。 安全性: 光学器具を使わない限り安全。 |
クラス2 | 波長範囲: 可視光(400~700 nm)。 強度: 最大1 mW。瞬きや目をそらす自然な反応により安全性が保たれる。 安全性: 短時間の露光は安全だが、意図的な凝視は危険。 |
クラス2M | 波長範囲: 可視光(400~700 nm)。 強度: Class 2と同等だが、光学器具を使用すると安全性が損なわれる。 安全性: 光学器具を避ける場合、肉眼での使用は安全。 |
クラス3R | 波長範囲: 可視光、赤外線、紫外線。 強度: 最大5 mW。短時間ならリスクは低いが、長時間や直接照射で危険。 安全性: 適切な注意が必要で、意図的な露光を避ける。 |
クラス3B | 波長範囲: 可視光、赤外線、紫外線。 強度: 5~500 mW。直接露光で即時眼損傷の可能性。 安全性: 保護具が必須。拡散反射光は通常安全。 |
クラス4 | 波長範囲: 全波長に対応。 強度: 500 mW超で非常に高強度。発火、眼・皮膚損傷、火災の危険性あり。 安全性: 厳格な管理と保護具が必要。反射や散乱光も危険。 |
クラス1は、無害とされる出力レベルのレーザーで、安全な環境下での使用が可能です。クラス1のレーザーには特別な警告ラベルは不要ですが、使用者が誤って高出力を扱うことがないよう、メーカーは使用環境や方法を注意深く定めています。
クラス4は、最も高出力で危険な分類に属するレーザーです。クラス4レーザーは直接または反射光による目や皮膚への危険があります。このため、クラス4レーザーを扱う場合、警告ラベルや安全対策が必須で、適切な保護具の着用や使用方法の法的規定が設けられています。
IEEE 802.3では、レーザー出力が一定の強度レベルを超えないように設計されることが求められており、安全ラベルや警告表示も規定されています。レーザーのクラスは1または1Mに該当し、使用者に対して適切な安全対策を求めています。
参考資料:
【レーザー製品の安全基準】レーザークラスの分類と安全対策、関連する法令等について解説|株式会社日本レーザー
レーザーの安全規格|株式会社大興製作所
7. まとめ:光通信におけるレーザーの雑音に関する規格とは
光通信システムにおけるレーザー雑音や安全規定は、通信品質の向上と使用者の安全確保を目的としています。レーザーの相対強度雑音や線幅に関する規格は、国際規格に基づいて定められています。さらに、クラス分類や警告ラベルにより、レーザー光の取り扱いには厳格な安全対策が求められています。今後、光通信技術がさらに進化する中で、レーザーに関する雑音や安全基準も適宜見直され、徹底されていくことでしょう。
8. SYCATUSの相対強度雑音測定システム「A0010A」
SYCATUSが提供するRIN測定システム「A0010A」は、相対強度ノイズ(RIN)測定のために最適設計された高感度・低ノイズの光レシーバと、Keysight Technologies(キーサイト・テクノロジー)社の高性能Xシリーズシグナルアナライザを使用し、世界最大の50GHzの広い測定帯域幅において、相対強度ノイズのスペクトラムを評価します。
9. SYCATUSの光雑音アナライザ「A0040A」
SYCATUSが提供する光雑音測定システム 「A0040A」はレーザーの線幅を光周波数雑音スペクトラムとして評価するための計測システムです。OバンドからLバンドまでの広い波長帯域に対応します。-7 dBm~+3 dBmの広い光パワー範囲において高い再現性が得られます。0.002 Hz(横軸周波数1 MHzにおける値)までの狭い線幅測定が可能です。電気シグナル・アナライザーと組み合わせることで簡単に線幅を測定できます。
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SYCATUSは、光通信と光センシング分野における測定の先駆者として、20年以上にわたり、測定のためのハードウェアとソフトウェアの統合システムを提供してきました。
これからも、専門性、独自性、正確性を基軸として開発された革新的な光計測技術を、全世界に発信してまいります。
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