FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave:周波数変調連続波)は、現代のレーダーやセンサー技術における革新的な方式です。その応用範囲は、自動運転車のセンサーシステムから、航空機やドローンの障害物回避、航空機の高度な信号検出や飛行制御、さらにはLiDAR(光による検出と測距)システムまで、多岐にわたります。本記事では、FMCW技術の基本原理や他の測距技術との違い、具体的な活用事例について解説し、その可能性に迫ります。

目次

FMCW技術の基本原理とは?

FMCWの定義と仕組み

FMCW(周波数変調連続波)は、時間とともに周波数が変化する信号を用いて距離を測定する方式です。この技術では、送信波と対象物からの反射波を比較し、その周波数差や位相差を解析することで、対象までの距離や速度を計算します。

従来のパルス方式と異なり、FMCWでは信号を連続的に送信するため、低い送信電力で動作できるのが特徴です。また、反射波の周波数変化を詳細に解析するため、高精度な距離測定と速度測定が可能です。このため、FMCWレーダーは特に動く物体の検出に優れた性能を発揮します。さらに、FMCW技術は天候や光条件に影響されにくく、夜間や悪天候でも高精度な検出が可能です。他の機器との相互干渉も避けることができます。

これらの特性から、FMCWは特に自動車の先進運転支援システム(ADAS)や航空機のレーダーシステム、ドローンのナビゲーションなどで重宝されています。

FMCW

FMCWの原理

パルスレーダーとの違い:方式と用途

FMCW技術と従来のパルスレーダーは、その方式や用途においていくつかの重要な違いがあります。

  • 信号の方式の違い
    パルスレーダー:短時間の高出力信号を間欠的に送信し、その反射波を検出します。高出力のパルス信号を使用するため、遠距離の物体を効率的に検出できる点が特長です。

    FMCW:連続波信号を使用し、信号を送信しながら同時に反射波を受信します。センサーの小型化が容易であり、軽量で省エネルギー性能が高く、コスト効率の良い点が特長です。
  • 用途の違い
    パルスレーダー:航空や船舶の監視、気象観測など、大規模で長距離測定が求められる分野に適しています。高出力の送信機が必要なため、小型化や低コスト化は難しいものの、広範囲を正確に監視できる信頼性の高さが利点です。特に防衛分野では、その高い検出能力により、早期警戒や目標追尾などに幅広く活用されています。

    FMCW:FMCWは、特に大量生産が求められる自動車産業において大きな利点となります。設置場所の制約が減り、より多くのセンサーを車両に搭載することが可能になります。自動運転車では、多数のFMCWセンサーを搭載することで、周囲環境を立体的に把握し、車両の安全性能を向上させています。
パルスレーダー

ドップラーレーダーとの違い:方式と用途

ドップラー効果は、音や電波などの信号源とその観測装置がそれぞれ移動することにより、信号源と観測装置との間に速度の違いがあると、音や電波の信号源の周波数とは異なる値の周波数が観測装置により計測される現象です。距離が近づくときは周波数が高くなり、離れるときは低くなります。このドップラー効果を応用したレーダーとしては、ドップラーレーダーとFMCWレーダーがあります。

  • 信号の方式の違い
    ドップラーレーダー:定常波またはパルス波の電波を送信し、移動する物体から反射された信号の周波数変化(ドップラーシフト)を検出することで、物体の相対速度を算出します。距離情報を得るのには適しておらず、速度計測に特化しています。

    FMCWレーダー:周波数を時間的に連続的に変化させた電波を送信し、ドップラーシフトを受けた反射波との周波数差(ビート周波数)を解析することで、物体の距離と速度の両方を同時に測定します。近距離の高精度な測定に適しています。
  • 用途の違い
    ドップラーレーダー:用途としては、交通取締りのスピードガンなどの速度測定器、雨や風の動きを測定する気象レーダー、スポーツにおけるボールや選手の速度計測などがあげられます。

    FMCWレーダー:用途としては、自動運転車の障害物検知や距離測定を行う車載レーダー、工業用途での距離や速度測定を行う産業用センサー、ドローン向けの衝突防止や高度測定などがあります。
ドップラーレーダー

ミリ波レーダーにおけるFMCWの重要性

ミリ波技術は、FMCWと組み合わせることで、その性能を最大限に引き出します。ミリ波は、周波数が高いため小さなアンテナで高解像度を実現でき、FMCWはこれを利用して目標物の距離、速度、方向を瞬時に判別します。

自動運転車での活用

FMCW技術とミリ波センサーの組み合わせは、自動運転車の開発に不可欠です。

特に自動車の先進運転支援システム(ADAS)やレーダーセンサーにおいて、その高精度な距離測定能力が活用されています。この技術の組み合わせにより、車両は障害物との距離、速度、方向を瞬時に測定でき、車両の衝突回避やレーンキープアシストに使用され、自律走行や安全機能が大幅に向上します。

航空・宇宙分野での活用

航空機では、ミリ波FMCWセンサーが空中での衝突回避や障害物検出に使用されています。さらに、宇宙探査においても、この技術が火星探査機の着陸支援などに利用されています。

LiDARシステムにおけるFMCWの活用

LiDAR(Light Detection and Ranging:光による検出と測距)は、FMCW技術とレーザー光を組み合わせた方式で、高解像度の3Dイメージングを実現します。

  • 高精度の3Dマッピング
    FMCW LiDARは、レーザー光の光周波数変調を利用することにより、ミリ波に比べて高い空間分解能と細かい距離測定を可能にします。これにより、自動運転車やロボットの環境認識がより詳細に行えます。特に、数百mにおよぶ距離測定と速度測定が同時に可能な点、種類を問わずLiDAR間の干渉が非常に小さい点、周囲の光の影響を受けにくい点は、ToF(Time to Flight)などの他のLiDAR技術に対する大きな優位性となります。
  • 産業応用の広がり
    FMCW LiDARは、地形測量や建設現場のモニタリングにも活用されています。光の特性を活用することで、環境などの条件の影響を受けにくく、幅広い用途で使用可能です。
FMCW LiDARシステム

LiDARシステムの原理

FMCW技術の課題と未来展望

FMCW方式共通の技術的な課題

FMCW技術の主な課題は、複雑な信号処理と高コストです。特に、リアルタイムでの信号処理を効率化するためには、信号処理が複雑になり、高度なアルゴリズムが必要です。そのため、システムの設計と実装には高い専門知識が求められます。また、センサーの製造コストを削減するための技術革新が求められており、現在も研究開発が進められています。

FMCW LiDARの技術的な課題

FMCW LiDARでは、レーザー光の光周波数の変調特性が重要な課題になります。一般的にFMCW方式では高い直線性を有する周波数変調が要求されます。FMCW LiDARでは、レーザーダイオードを駆動する電流を変化させることにより、光周波数を変調しますが、過渡的な温度変化のため、光周波数変調の直線性が損なわれることがあります。このため、光周波数変調特性を正確に評価する必要があります。レーザーダイオードの電流を変化させると、光強度も変化するため、光周波数変調特性の評価においては、光強度の変化の影響を受けない方式が要求されます。

また、レーザーダイオードの光周波数雑音がFMCW LiDARの精度に影響するため、光周波数雑音の低減が要求されます。FMCW LiDARでは、レーザー光の変調周期内の光周波数雑音が抑制の対象となります。一般的にレーザーダイオードは、FMCW LiDARの変調周波数より低い周波数領域の光周波数雑音が大きいため、これとは分離し、必要とされる周波数帯域における光周波数雑音を把握する必要があります。

FMCW LiDARでは、レーザー光の射出方向を2次元的にスキャンする必要があり、この仕組みをコストを抑えた方式で実現する必要があります。光集積回路技術を用いて実現することが望まれています。

将来の研究と市場展望

今後、FMCW技術はAIや機械学習、ナノテクノロジーと統合され、さらに精度の高いリアルタイム解析が可能になると期待されています。また、小型化や省エネルギー化に向けた研究が進められ、これにより自動車、航空、宇宙開発、さらには身近な医療分野での応用まで、一層広がっていくことが予想されます。

関連ニュースと最新技術紹介

SYCATUS(シカタス)は、FMCW LiDARの光周波数変調特性を評価する「A0070A 光周波数アナライザ」などの革新的な製品を販売しています。この技術は、自動運転車や航空宇宙分野におけるFMCW技術の応用を後押ししています。

また、2024年9月に中国の深圳で開催された「CIOE 2024」(中国国際オプトエレクトロニクス博覧会)では、SYCATUS製「A0070A 光周波数アナライザ」と、レーザーのノイズを評価する「A0010A RIN測定システム」と「A0040A 光雑音アナライザ」を出展しました。

光周波数変調特性を評価:「A0070A 光周波数アナライザ」

A0070A Optical Frequency Analyzer

A0070A 光周波数アナライザは、FMCW LiDAR用レーザの評価に特化した革新的なシステムです。

リアルタイムで光周波数変調波形を観測でき、光強度変調の影響を受けずに光周波数変調成分を抽出します。測定前の調整が不要で、レーザー入力後すぐに波形が表示され、高い直線性により広い光周波数偏差に対しても正確な測定が可能です。

A0070AはFMCW LiDARの開発と製造を促進しています。

レーザーノイズを評価:「A0040A 光雑音アナライザ」と「A0010A RIN測定システム」

光雑音アナライザー「A0040A」は、レーザー線幅を光周波数ノイズのパワースペクトル密度として評価する業界初のソリューションです。

OバンドからLバンドまでの広い波長帯域に対応します。分解能と感度が非常に高いため、0.002 Hzのローレンツ線幅の評価が可能です。また、ダイナミックレンジは100 dBを超えるため、ITLAに光周波数ディザを用いている場合でも正しく測定が可能です。

デジタルコヒーレント伝送システムに必要とされるレーザーの1/fノイズ、ホワイトノイズ、ローレンツ線幅を解析します。測定の事前調整が不要であり、測定のスループットを高めるとともに優れた確度と再現性を備えています。

光周波数雑音をスペクトラムとして評価できるので、FMCW LiDARのように特定の周波数帯域の光周波数雑音の評価に最適です。

さらに、A0070A 光周波数アナライザの機能も統合可能であり、FMCW LiDAR用のレーザーの光変調特性と光周波数雑音特性の評価を1台で実現します。

A0010A RIN測定システムは、相対強度ノイズ(RIN)測定のために最適設計された高感度・低ノイズの光レシーバと、Keysight Technologies(キーサイト・テクノロジー)社の高性能Xシリーズシグナルアナライザを使用し、世界最大の50GHzの広い測定帯域幅において、相対強度ノイズのスペクトラムを評価します。

まとめ

FMCW(周波数変調連続波)技術は、LiDARやレーダーとして極めて有用であり、交通、安全、産業全般において重要な役割を果たしています。その高精度測定、速度解析、リアルタイム性能は、自動運転車や航空宇宙分野をはじめとする多くの領域で革新をもたらしています。

今後、AIやナノテクノロジーとの統合が進むことで、FMCW技術はさらなる飛躍を遂げるでしょう。その発展は、新しい市場の創出と、より安全で効率的な社会の実現につながると考えられます。

FMCW技術の未来は明るく、今後の研究と応用がどのように展開されるのか、引き続き注目する価値があります。

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SYCATUSは、光通信と光センシング分野における測定の先駆者として、20年以上にわたり、測定のためのハードウェアとソフトウェアの統合システムを提供してきました。

これからも、専門性、独自性、正確性を基軸として開発された革新的な光計測技術を、全世界に発信してまいります。

また弊社では、光測定に関する様々な疑問やシステム機器の導入に関するお悩みに対して、専門的なアドバイスを提供しています。

弊社の専門スタッフが、光測定に関するさまざまな問題の解決をお手伝いをさせていただきます。